・・・田所さんは仏家の出で、永年育児事業をやっている眉毛の長い人で、冗談を言ってはひょいと舌を出す癖のあるおもしろい人でした。田所さんのお嬢さんは舞をならっているそうです。 新聞にはその日のうちに西と東に別れたように書いていたけれど、秋山さん・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・りはともかくも小供のためにあの仲のよい姑と嫁がどうして衝突を、と驚かれ候わんかなれど決してご心配には及ばず候、これには奇々妙々の理由あることにて、天保十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれの妻よりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・ 婦人が育児と家庭以外に、金をとる労働をしなければならないというのは、社会の欠陥であって、むしろやむを得ない悲惨事である。婦人を本当に解放するということは、家庭から職業戦線へ解放することではなくて、職業戦線から解放して家庭へ帰らせること・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 処女は処女としての憧憬と悩みのままに、妻や、母は家庭や、育児の務めや、煩いの中に、職業婦人は生活の分裂と塵労とのうちに、生活を噛みしめ、耐え忍びよりよきを望みつつ、信仰を求めて行くべきである。 信仰を求める誠さえ失わないならば、ど・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・結婚生活の窮乏に堪え得られないなら、共稼ぎして、母性愛と育児とをある程度まで犠牲にしても結婚すべきである。オールドミスの職業婦人は特別な天才や、宗教的、事業的献身の場合のほかは見るも淋しく、惨めである。窮乏せる結婚生活が恋愛の墓場であるにし・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・国家が社会施設として育児院、産院、託児所を設けなければならないということは、寿産院の事実ではっきり示されています。〔一九四八年一月〕 宮本百合子 「“生れた権利”をうばうな」
・・・ 十一月号の『漁村』には、各県の漁業の合理化の方策がのせられていて、婦人に関する項目として、陸上の仕事はなるたけ婦人にさせること、日常生活の合理化を教え、衛生、育児の知識を授けること、女子漁民道場をこしらえて漁村婦女の先駆者たらしめるこ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
どんな育児の本も、必ずとり落しなく触れている一つのことがあります。それは幼い子供たちが次第次第に智慧づいて来たとき、心の目醒めを告げる暁の声としてきっと、「それは、なあぜ?」「どうしてそうなの?」と熱心に答えを求める。これ・・・ 宮本百合子 「最初の問い」
・・・ 僅かながら年々絶えず出版されていたのは家事・家政・料理・育児・裁縫・手芸などの本で、それにしろ程度から云うと大体は補習書めいたものが多い。 これらの状態を、ひとめでわかる統計図にして、今日の日本の若い女性たちが眺めたら、彼女たちは・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ СССРは過度姙娠、育児の負担から女性を解放すると同時に、戸毎の大小の厨炉の前から女を解こうとした。集会に於て勧告するであろう「我等新社会*の一市民は、各自の精力を最も有益に利用することを学ばなければならない。二杯のスープと二皿の・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫