・・・ダー、ダー、ダースコ、ダーダ、青い 仮面この こけおどし、太刀を 浴びては いっぷかぷ、夜風の 底の 蜘蛛おどり、胃袋「達二。居るが。達二。」達二のお母さんが家の中で呼びました。「あん、居る。」達二は走って行きま・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・毛皮も胃袋もやってしまうから」 小十郎は変な気がしてじっと考えて立ってしまいました。熊はそのひまに足うらを全体地面につけてごくゆっくりと歩き出した。小十郎はやっぱりぼんやり立っていた。熊はもう小十郎がいきなりうしろから鉄砲を射ったり決し・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ところがどうだ諸君諸君が一寸菜っ葉へ酢をかけてたべる、そのとき諸君の胃袋に入って死んでしまうバクテリアの数は百億や二百億じゃ利けゃしない。諸君が一寸葡萄をたべるその一房にいくらの細菌や酵母がついているか、もっと早いとこ諸君が町の空気を吸う一・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・こいつはね、空気獣だなんていってるが、実はね、牛の胃袋に空気をつめたものだそうだよ。こんなものにはいるなんて、おまえはばかだな」 亮二がぼんやりそのおかしな形の空気獣の看板を見ているうちに、達二が又言いました。「おいらは、まだおみこ・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ ソモフは、子供を托児所にあずければいいとその時も云った。 胃袋へ流し込んだ醋酸の火傷がなおるにつれ、グラフィーラの生活には希望と明るみがさして来た。これまで知らなかった、暢々したひろさでさして来た。ソモフは、万事を約束通りにしてく・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・それらすべては青年から壮年へと送られた重吉の獄中の十二年が、彼の人間らしい瑞々しさにとって、どんなに乾いたものであり、胃袋と同じくいつもひもじいものであったかを知らした。しかも、重吉はそれらについては何とも自分から話さない。十月十日に府中刑・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫