・・・ 科学者が真に科学者であるためには沈着な勇気と歴史への洞察と人間は結局合理的な生きものであるということへの信頼とを、つよく胸底に蔵さなくてはならない時代がある。科学の世界にだって、流行というものはある。それが近代の宣伝術というものと・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・意気地こそは、封建社会の庶民が寧ろ武士の強権に反撥して胸底深く抱いた感情である。横光利一氏など、義理人情至上性を昨今強調されるようであるが、日本固有の人情というものの中には、そういう意気地という、些かは颯爽たる分子もなくはないのである。・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・が連載されているが、山本有三氏が、どんな新しい意力と用意とでもって、今日の彼の読者の胸底に疼いている如何に生くべきかという問いに答えて行くであろうかと興味を覚える。人及び芸術家としての幸福とは、果してどういうところに在るものであろうか。特に・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・そうして、彼の胸底からは古いジョセフィヌの愛がちらちらと光を上げた。彼はこの夜、そのまま皇后ルイザにも逢わず、ひとり怒りながら眠りについた。 ナポレオンの寝室では、寒水石の寝台が、ペルシャの鹿を浮かべた緋緞帳に囲まれて彼の寝顔を捧げてい・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫