・・・という合言葉の代りに、生活と文学とにおける「能動精神」の主張を以て現れたのである。 煩瑣、無気力であった文学の袋小路は、やっと広く活々とした大路へ通じる一つの門を見出したかのようであったが、ここにも亦、複雑な日本の情勢は複雑な文学の諸問・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そういう常識の本質をつかんで、人間の幸福に向って、絶えず常識の能動な面を刺戟してゆくことこそ、人間らしさではないだろうか。女性が常識のなかで実利的にばかりなってしまったり、固着した低俗に陥ってしまったりしては悲しいと思う。因幡の兎のようにさ・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・階級性ぬきのものとしようとしてついに能動精神というモットーにおち、もう一段の悪情勢で、日本の文学がほとんどまったく侵略戦争のローラーにひしがれたということを、悲傷をもって経験している。プロレタリア文学の運動がはじまったころ、文学の純粋性を固・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・フランスの人々が、人民戦線によってめいめいの近代的自我を主張し、個人の尊厳をまもった努力にくらべれば、日本でいわれた人民戦線、行動主義の文学能動精神などというものは、実に社会的誠意をもっていなかった。 プロレタリア文学運動に加えられた野・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・「行動主義の文学」「能動精神」が雑誌『行動』を中心として、舟橋聖一、豊田三郎、田辺茂一等によって提唱された。 満州事変以来四年を経て、その年は日本の文化が新たに遭遇しなければならないめぐり合わせについて、美濃部達吉博士の問題その他をめぐ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・例えばアントワーヌが、少女デデットのために応急手術をする場面の描写における作者の態度と、後の能動主義と云われた運動との連想。或は、エコル・ノルマルの入学試験成績発表日のジャックの落付きない心持の描きかたは第二巻「少年園」での作者とちがって、・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・そのとき一つの歴史が生きて経過され体と精神とによってためし験されるということが出来るし、人間として歴史に働きかけてゆく能動の力が生じるのである。 どんなに歴史が強烈に動いても、それは人間の動きから発するものであるということは明らかなのだ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ 愛情の種々 ○性的生活に於て 能動的なものの被動的なものに対して感ずる愛情。 ○能動的な立場のものは 自分によってあのように燃え 情を発し、夢中になるものが可愛く 何も云えず牽きつけられる。自分に向って来る体の・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・日本における野蛮な抑圧は、人民戦線を無社会性のものと不具化し、その結果ヒューマニズム論議も不徹底となって能動精神の主張となり、それらの主張から生れた作品は「若い人」のような無目的で素朴な生活力の氾濫の描出に終りました。プロレタリア文学が、主・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・では、この作者によって一二年前提唱された能動精神、行動主義の今日の姿として、実力養成を名とする現実への妥協、一般的父性の歓喜というようなものが主流としてあらわれて来ているのである。 青野季吉氏が、近頃『文学界』を中心としていわれている政・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
出典:青空文庫