・・・写生にのみ依らんか、絵画はついに微妙の趣味を現わす能わざらん、実験にのみ依らんか、尋常一様の経歴ある作者の文学は到底陳套を脱する能わざるべし。文学は伝記にあらず、記実にあらず、文学者の頭脳は四畳半の古机にもたれながらその理想は天地八荒のうち・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ことのやめられない貴族学校出のオリガとの生活は、彼を歩いて来た道から脱する力をもっていることを理解しはじめた。ゴーリキイはオリガとしっかり抱き合い、黙ったまま、いくらか悲しんでわかれた。後年ゴーリキイはその「初恋について」の中に書いている。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・彼は苦患を脱する。 こうしてある種の人々は生から逃げ出して行く。そして漸次に息をしながら死んで行く。何ものも人格に痕を残さない。人格は一歩も成長しない。腐敗がいつのまにか核実にまで及んでいる。六 製作の苦しみは直ちに生の・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫