・・・昨今の事情においては被害者も加害者も、本質においては同じく被害者であることを知って、根本の責任追究のために一致行動し不幸から脱出しなければならない。 米 一月十日現在として全国の供出米が割当のやっと二割八分しか・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・民主的批評は、よい文学として、それをよむ人々の胸に訴え、おちいっている矛盾からの発展的脱出を意欲させ得るものでなければならない。批評も、平和のためにたたかい民族の愛のためにたたかいつつある人民的な人格の力と火とをもたなければなるまい。・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・私小説からの歴史的な脱出の戸口は、文学の外のこのような場所にある。したがって文学の創作方法は、科学の定理のように抽象されることは決してありえないし、それでこそ文学の文学である人間性があるのだけれども、歴史の進行の方向と階級間の関係についての・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ とるものもとりあえず新京を脱出した八月九日という日は、十五日より六日も前で、関東軍、役人たちの遁走前奏夜曲であったということを著者は、なにかの思いでこんにち、かえりみるときもあるだろう。新京にいてさえ、一般住民は不意うちをくい、おいて・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・類型的でなくなる努力、淡泊さ、見栄え等を本当のものにする精進、性の上から来る色々の欠陥と不自由、それから脱出する苦悶――女性は芸術の種を実に沢山持ってはいるが、然しそれを植えつけ、花にすることの困難をもっています。其処に女性として永久的な苦・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・来シェストフの不安と云われるものは理性への執拗な抗議、すべて自明とされるものに対する絶望的な否定に立って、現実に怒り、自由に真摯な探求を欲することを彼の虚無の思想の色どりとしているのであるから、不安を脱出しようという精神発展の要因は含まれて・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ リアリズムと云えば自然主義の系列の些末主義の範囲で規定して、そこからの脱出をロマンティシズムに見るような、今日の時代の性格へのかかわりあいかたにこそ、今日の文学の弱い部分があらわれているのだと思う。作家が、自己というものを百万人の一人・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・日本は、いく久しい封建の社会生活の間に、文学はいつもある意味で人間性の流露をもとめるその本質にしたがって、苦しい現実からの脱出であり、主情的ならざるをえなかった。自然主義の流れさえ、日本文学の伝統の岸にうちよせれば、それはおのずから変化して・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ つい先日の新聞にのった文芸時評で、青野季吉が、文壇文学からの「脱出」が試みられている一つながりの作品として数篇の小説にふれていた。 現代文学の行きづまりが感じられてから、脱出は「雲の会」となり「ロマネスク」の愛好となって賑やかに示・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 私小説的境地からの脱出として社会文学ということがいわれた時、文学は作者と作品の世界とを繋ぐ血肉的な関係に対する支配を失っていて、作家の創作的意図で作品が作家の生活の外でどしどし纏められてゆく危険に曝されていたのであるが、社会的な素材を・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫