-
・・・見世物の大将を送って部屋から出られて、たちまち、ガラガラドシンの大音響、見事に階段を踏みはずしたのである。腰部にかなりの打撲傷を作った。私はその翌る日、信州の温泉地に向って旅立ったが、先生はひとり天保館に居残り、傷養生のため三週間ほど湯治を・・・
太宰治
「黄村先生言行録」
-
・・・右の腰部からまっ黒な血がどくどく流れ出して氷盤の上を染める。映画では黒いだけのこの血が実際にはいかに美しく物すごい紅色を氷海のただ中に染め出したことであろう。そのうちにまたいくつかの弾をくらったらしい。いくら逃げても追い駆けて来る体内の敵を・・・
寺田寅彦
「空想日録」