・・・なあに、ただのお腹下しなんですよ。あしたはきっと熱が下りますよ」「御祖師様の御利益ででしょう?」妻は母をひやかした。しかし法華経信者の母は妻の言葉も聞えないように、悪い熱をさますつもりか、一生懸命に口を尖らせ、ふうふう多加志の頭を吹いた。…・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・僕はいつかイタリアのファッショは社会主義にヒマシユを飲ませ、腹下しを起こさせるという話を聞き、たちまち薄汚いベンチの上に立った僕自身の姿を思い出したりした。のみならずファッショの刑罰もあるいは存外当人には残酷ではないかと考えたりした。・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・かわいい孫が腹下しをして、わずか二日ばかりで死んだのであったが、せっかく買ってきた薬がなんのききめもなかったのが思い出されました。「あのとき、このくまのいがあったら、たすからないともかぎらなかった。」 じいさんは、男が残していった、・・・ 小川未明 「手風琴」
出典:青空文庫