昼間陸地の表面に近い気層が日照のためにあたためられて膨張すると、地上一定の高さにおいては、従来のその高さ以下にあった空気がその水準の上側にはみ出して来るから、従ってそこの気圧が高くなる。すなわち同じ高さの海上の気層に比べて・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・下して表面は急激に冷えるが内部は急には冷えない、それが徐々に冷える間は、岩質中に含まれたガス体が外部の圧力の減った結果として次第に泡沫となって遊離して来る、従って内部が次第に海綿状に粗鬆になると同時に膨張して外側の固結した皮殻に深い亀裂を生・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・その容器の中の空気に、充分湿気を含ませておいてこれを急激に膨張させると、空気は膨張のために冷却し含んでいた水蒸気を持ち切れなくなるために、霧のような細かい水滴が出来る。この水滴が出来るためには、必ず何かその凝縮する時に取りつく核のようなもの・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・が立つのは、壁や屋根が熱せられると、それに接した空気が熱くなって膨脹してのぼる、そのときにできる気流のむらが光を折り曲げるためなのです。 このような水や空気のむらを非常に鮮明に見えるようにくふうすることができます。その方法を使って鉄砲の・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・可能の世界の限界が急に膨張して爆発してしまったようなものであったに相違ない。 やはりそのころ近所の年上の青年に仏語を教わろうとしたことがある。「レクチュール」という読本のいちばん初めの二三行を教わったが、父から抗議が出てやめてしまった。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・陸地の上の空気は海上よりも強くあたたまり、膨張して高い所の空気が持ち上がるから、そこで海のほうへあふれ出すので、それを補うため、下では海面から陸のほうへ空気が流れ込むのがすなわちこの風です。それだから海軟風の吹く前には、空の高い所では逆の風・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・また同じレーノルズの砂の膨張性に関する研究は、その後あまり注目する人もなかったようである。これは土木工学の基礎となる土圧の問題には当然考慮さるべきものと思われるのであったが、ごく最近にこの考えを採用して土圧の問題を新しく考え直そうとする人も・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・温度の観念でも昔の触感によった時代から特殊物質の膨脹によった時代を経て今日の熱力学的の絶対温度に到着するまでの径路を通覧すれば、ある時代に夢想だもできぬような考えが将来に起こりうる事は明らかである。もっと新しい例を取れば質量に関する観念があ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・シー・ティー・アール・ウィルソンの膨張箱の実験が画期的であったゆえんはまず何よりも粒子の実在を質的に実証した点であった。ラウエ、菊池の実験といえども、まず第一着に本質的に何よりもだいじなことは「写真板の上にあのような点模様が現われる」ことで・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・経済的には膨脹していても、真の生活意識はここでは、京都の固定的なそれとはまた異った意味で、頽廃しつつあるのではないかとさえ疑われた。何事もすべて小器用にやすやすとし遂げられているこの商工業の都会では、精神的には衰退しつつあるのでなければ幸い・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫