・・・集れる人々の中には、彼のつまらない生涯を臆面もなくくだくだと述べ立てたのに対して、嫌気を催したものもあったであろう、心窃に苦笑したものもあったかも知れない。しかし凹字形に並べられたテーブルに、彼を中心として暫く昔話が続けられた。その中、彼は・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・この社会ファシストの代表は、満鉄が不明の活動を援助しているというようなさかさまごとを臆面なく披瀝して軍事活動を合理化している。又「不幸な犠牲者群」として、朝鮮農民避難者に対し感傷的な辞句をならべている。「ただ無言のあいさつ」をする彼に対して・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ これを見て、ブルジョア文化というものが、どんなに臆面なくブルジョア自身の利益を守るためには形を変えられるものであるか、まざまざと理解される。 ブルジョア自身の利益である間ラジオも新聞も劇場も世界平和主義、協調主義を放送する。それが・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・それ故、民法における女子の無能力を改正してしまったらば、今日臆面もなく失業させた女子に、家庭に帰れと命じているその口実の最も薄弱な口実のよりどころさえも失われてしまったであろう。この事実を私共は単なる一つの辛辣な観察としてではなく、真面目に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・母親は「臆面なしで困る」と言うが、それが翁の気に入っている。 翁はこう思い定めたが、さてこの話を持ち込む手続きに窮した。いつも翁に何か言われると、謹んで承るという風になっている少女らに、直接に言うことはもちろん出来ない。外舅外姑が亡くな・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・とおっしゃったのを、僕がまた臆面なく「エエあなたも大変好だけれど、おんなじじゃないわ。だっておっかさんは、そんな立派な光る物なんぞ着てる人じゃなかったんだものを」というと、それはそれは急にお顔色が変ったこと、ワットお泣なさったそのお声の悲そ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫