・・・ここに転向というモメントから、多くの人々の精神が生涯の問題としてむしばまれ、根本から自主性を失って、マルクス主義者でなかったものより善意を歪められ卑屈にさせられて行った本質がある。「冬を越す蕾」は、治安維持法のこのような非道さにふれてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・キャナライゼーションということが、人間の行動と思惟の自主的な統一をどんなに麻痺させてゆくものかということがおそろしいほどよく分ります。キャナライゼーションが「全人格を分解する作用をもっていて」「自分では自分で判断していると思っているのだけれ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・葉子自身がただの一度も自主的に何とか経済的な面を打開しようと思っても見なかったこと。それは、日清戦争前後のロマンティックな文学的雰囲気に触れ、非常に才気煥発で敏感な葉子にあっても、やはり環境的にもたらされてそこから脱ける意力ははぐくまれてい・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そのような判断そのもののうちにわたしたちの人間的、社会的自我の課題、その自主性と発展の契機がひそんでいる。「わたしたちは、やっと青春をとり戻したばかりだ。この上、戦争は欲しない。」若い人々は、まず基本的命題としてこの自主的発言をした上で・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・これまで、日本の婦人は、子供のときからお嫁に行く仕度ばかりさせられて育って来て、自分で職業を選び、その職業に対して社会的責任を感じながら自主的に成長してゆくというような生きかたは、例外でした。日本の婦人の大多数が、まだ社会的に経済的に独立し・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・異性の友情という、どことなし従来の婦人雑誌のトピック向きな空気の低迷した隅からぬけ出して、もっと心理が強健で、もっと持続性と自主性とをもった両性の友情がはぐくまれて行くことを、私たちは自分たちの生活の現実としての希望としているし、努力してい・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・権力を失うまいとするものが、どんなに卑しく膝をかがめて港々に出ばろうとも、着実真摯な男女市民の人生は、個人と民族の基本的人権のありどころを見失わないで、粘りづよく現実に、自主的で民主的な運命の展開のためにたたかわれてゆかなければならないと思・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・もしそういう抑圧から自分を解放して繊維の組合が自主的な企画で生産をやるようになれば、組合間の健全な物質の交換で布地の流れは本当に違ってくる。 今日新聞に出た経済安定本部の経済白書をわたしたちは、どんなこころもちでよんだだろう。あの白書の・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ しかしながら、その人々の心もちとしては、まじめであったそれらの試みも、日本の社会と文化とが半ば封建的で、ただの一度も権力にたいする批判力としての自主性、自身を建設する力としての自立性をもたなかった伝統にわずらわされ、つまりは戦争遂行と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ それにつけても、映画の恋愛に現われる女がはたしてどの程度まで性格的に自主的に感情表現をし、行動をしているであろうか、大分疑問である。なるほど、現在有名になっている女優一人一人について見れば、容貌にしろ髪の色、声にしろ感情表現の身振りに・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
出典:青空文庫