・・・が昔から自作農であったことに変りはない。祖父は商売気があって、いろ/\なことに手を出して儲けようとしたらしいが、勿論、地主などに成れっこはなかった。 親爺は、十三歳の時から一人前に働いて、一生を働き通して来た。学問もなければ、頭もない。・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・が、五段歩ほど田を持っている自作農もいる。又、一反歩ほど持っている者もいる。そこで「吾々貧乏人は……」と云われても、五反歩の自作農は、自分にはあまり関係していないことを喋っているように思ったりするのである。 話は、十分に砕いて、百姓によ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
一 源作の息子が市の中学校の入学試験を受けに行っているという噂が、村中にひろまった。源作は、村の貧しい、等級割一戸前も持っていない自作農だった。地主や、醤油屋の坊っちゃん達なら、東京の大学へ入っても、当然で・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ 地主の娘と、小作兼自作農の伜との結婚は、家と家とが、つり合わなかった。トシエ自身も、虹吉の妻とはなっても、僕の家の嫁となることは望んでいなかった。 が、彼女は変調を来した生理的条件に、すべてを余儀なくされていた。「やちもないこ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 太郎には私は自身に作れるだけの田と、畑と、薪材を取りに行くために要るだけの林と、それに家とをあてがった。自作農として出発させたい考えで、余分なものはいっさいあてがわない方針を執った。 都会の借家ずまいに慣れた目で、この太郎の家・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・年若い農夫としての太郎は、過ぐる年の秋の最初の経験では一人で十八俵の米を作った。自作農として一軒の農家をささえるには、さらに五六俵ほども多く作らせ、麦をも蒔かせ、高い米を売って麦をも食うような方針を執らせなければならない。私は太郎の労力を省・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ 玄米一石の生産費自作農二五円八七銭 小作農二八円七一銭 現在の農村は事変以来二割近い手不足で甚だ困難している。従って老人、女子、子供は一層農村で大切な労働力となって来た。昨年は一部落当に老人二人婦人一人半子供十人半が平・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・となった山間のK部落の自作農らが、更に戦争の軍事費負担を加重される。軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・その謎の説明として、貴方が藤村の社会的・階級的制約をあげ、小市民的インテリゲンツィアとしての観照的態度をあげてあるのは誤った解釈ではないと思いますが、彼が自分の長男をわざわざ木曾にかえして小さいながら自作農として暮させているところ、人生的な・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・こうして見ると、直接農村に一般ラジオ加入者が多くなったとは云えず、寧ろ、中農、地主から没落した自作農等の相場への関心或は農産品仲買関係者が、米や繭の売買で幾分かは儲けてラジオでも引こうかという工合になっていることが推察されるのである。 ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫