・・・という標が貼られてある。自家用自動車は、特殊会社のほかは五百万円以上の会社の社長級からでなくては動かせないことになったという噂だから、そうだとすれば「自」というマークは持ち主の身上を街上にさらして或る意味では示威しているような結果にもなり、・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・検事という職務の官吏が、みんな自家用自動車で通勤してはいない。弁当の足りないことを心のうちに歎じつつ、彼等も人の子らしく、おそろしい電車にもまれて、出勤し、帰宅していると思う。官吏の経済事情は、旧市内のやけのこったところに邸宅をもつことは許・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ K部落の土着で、「ふん、自家用か、お前も役場の衆みたいなことをいう! これ以上、どうして芋が食える。朝食うて、昼食うて晩食うて……。お前に食わさんのが慈悲じゃと思え」という兄について彼は部落を歩きまわり、ことごとに部落の荒廃を目撃する・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 咲、自家用にのって、やすい花屋をさがして吉祥寺前の問屋とかで買って来た由。 芍薬二輪ぐらいずつ大切にいけられている、 額「これいい絵ね だれの?」「淳さんの、恐らく淳さんの一番いい絵じゃないかって 云わ・・・ 宮本百合子 「生活の様式」
出典:青空文庫