・・・が、世界の美人を一人で背負って立ったツモリの美貌自慢の夫人が択りに択って面胞だらけの不男のYを対手に恋の綱渡りをしようとは誰が想像しよう。孔雀が豚を道連れにするエソップにでもありそうな図が憶出された。「あの奥さんがYと?」と私は何度も何・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・と、友だちは、自慢したのであります。「そうかい、もらっていって、植えるから。」と、二人は同じくらいの苗木を一本ずつ、ぶらさげて、お家へ帰ったのでした。 年郎くんは、その小さい木をどこに植えようかと考えました。「圃にうえようかな、・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・すると、教師は自慢をして、「子供を教育するには、きびしくするにかぎる。あんなばかですら、こんなりこうになったのは、だれの力でもない。俺の力だ。」といいふらしました。 それから、教師は、いっそう生徒に対して、きびしくなりました。右を向・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・父は疑っていたかもしれぬが、私はやはり落語家の父の子だった。自慢にはならぬが、話が上手で、というよりお喋りで、自分でもいや気がさすくらいだが、浅墓な女にはそれがちょっと魅力だったらしい。事実また、私の毒にも薬にもならぬ身の上ばなしに釣りこま・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・最高学府なんぞ出たからとて、べつだん自慢にも、世渡りのたしにも、……ことに今になっては……ならぬ故、どうでもよいことだが、しかし、まあ誤謬だけは正して置こう。実は、おれは中等学校へは二三年通ったことはあるが、それ以上の学問は、少なくとも学校・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・自分は士官室で艦長始め他の士官諸氏と陛下万歳の祝杯を挙げた後、準士官室に回り、ここではわが艦長がまだ船に乗らない以前から海軍軍役に服していますという自慢話を聞かされて、それからホールへまわった。 戦時は艦内の生活万事が平常よりか寛かにし・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・かしく言えば一種霊活な批評眼を備えていた人、ありていに言えば天稟の直覚力が鋭利である上に、郷党が不思議がればいよいよ自分もよけいに人の気質、人の運命などに注意して見るようになり、それがおもしろくなり、自慢になり、ついに熟練になったのである。・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ 肌自慢の鼻の高いロシアの娘は反問した。「じゃ、これと較べて見ろ!」 1カ月の俸給に受取った五円いくらかのその五円札を出して見せた。「アメリカ人がどうして、日本の偽札を拵えるの? え、どうして拵えるの?」娘は、紅を塗ったよう・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・嬉しいに違いない、自慢をしてもよいに違いない。嬉しがる、自慢をする。その大金は喜悦税だ、高慢税だ。大金といったって、十円の蝦蟇口から一円出すのはその人に取って大金だが、千万円の弗箱から一万円出したって五万円出したって、比例をして見ればその人・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・は自分が大手柄でも仕たように威張り散らして、頭を振り立てて種々の事を饒舌り、終に酒に酔って管を巻き大気焔を吐き、挙句には小文吾が辞退して取らぬ謝礼の十貫文を独り合点で受け取って、いささか膂力のあるのを自慢に酔に乗じてその重いのを担ぎ出し、月・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
出典:青空文庫