・・・かゝる村落自治こそ、思い出しても、なつかしいものであったにちがいない。 流浪漂泊の詩人が、郷土に対して、愛着を感じたのは、たゞ自然ばかりでなく、また人間に於てゞもある。真実を求めて、美を求めて、はてしない旅に上った彼等は、二たびそれを最・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・従って、これらの文学よりの教化は、概念的の指導でなく、また強圧的な教訓でもなく、全く、体験に訴え、自得し、自治せしむるところにあるのであります。 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ 思うに、このことは、たゞ児童等の反省と自治的精神によってのみ、その結果が期待されるものと信じます。そして、かゝる情操の素因をつくるものこそ、実に文芸の使命であり、人格的教育のたまものと考えています。殊に、文芸の必要なるべきは、少年・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・強制、強圧を排して、自治、自得に重きを置くはこのためです。 その最もいゝ例は、おじいさんや、おばあさんが、毎日、毎夜同じお話を孫達に語ってきかせて、孫達は、いくたびそれを聞いても、そのたびに新しい興味を覚えて飽きるを知らざるも、魂の接触・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・ところが自由寮には自治委員会という機関があって、委員には上級生がなっていたが、しかしこの委員は寮生間の互選ではなく、学校当局から指命されており、噂によれば寮生の思想傾向や行動を監視して、いかがわしい寮生を見つけると、学校当局へ報告するいわば・・・ 織田作之助 「髪」
・・・村役場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・それで其等の勢力が愛郷土的な市民に君臨するようになったか、市民が其等の勢力を中心として結束して自己等の生活を安固幸福にするのを悦んだためであるか、何時となく自治制度様のものが成立つに至って、市内の豪家鉅商の幾人かの一団に市政を頼むようになっ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・その上今日のように世の中が複雑になって、教育を受ける者が皆第一に自治の手段を目的とするならば、天下国家はあまり遠過ぎて直接に我々の眸には映りにくくなる。豆腐屋が豆を潰したり、呉服屋が尺を度ったりする意味で我々も職業に従事する。上下挙って奔走・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・まず、アジアの北の広い部分を占めてソヴェト同盟の、いくつかの民族自治共和国をふくむ地域があります。広大なその地域と、これもまた広い中華人民共和国との間にはさまっているために、せまいように見える蒙古人民共和国があります。三十八度線を区ぎりとし・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・ 一つの学校の中で、優秀な細胞があり、自治会があり、そこに属す学生はすべて頭脳明晰だということだけが、その学校全体の学生の精神水準を示すとは云いきれないし、日本の青年の進歩の総和的な標準だとはいえません。東大でも、伊藤ハンニまがいの山師・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫