・・・文学と大衆との無批判性、大人の文学、文学における日本的なものの強調等は、文学の全体としての健全な発展のために自省され、再評価されるべき範囲を脱し、文学を論じつつ、その論調を文学以外の規準で律するような危険を示して来た。批評文学は、昨年既に批・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 新聞と異常で衝撃的なニュースとを結びつけて期待しているような不幸な近代の都会神経を、購読者の側からも自省しなければならないと云われたのもあたっている。それにつられて御丁寧にも金権政治工作に毎日を買いわたしてしまっているのは、ほかならぬ・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・また、作者自身が、賢く第三者の評言をうけいれて、そのマイナスの意味をもつ特徴は自分が育って今も住んでいる東北地方の陰鬱な風土の影響であろうと自省しているところに、この問題を真に文学上発展させるモメントの全部があるとも考えられない。 なぜ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ こう解釈しても大してまちがいないと思うのは、この作品で主人公の深見進介が、なにかのモメントで、いつもくりかえし自省している一つのことがあります。それは、自己完成の願望の純粋な発露と、保身的な我執との間を、自身にたいしてきびしく区別しよ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のなかで女はどのような社会的歩きかたをして来た・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ ところで、ここに私たちの注意をひき且つ周密な自省を求めている一つのことがある。それは、文化面をもひきくるめてのこういう誤った全体主義の見かたが、どうして今日大衆の進歩的な部分、知識人の進歩的な部分によって、それが当然受けるべきだけ・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・批判の精神の無私な努力だけが、世紀の諸相の示している歴史の制約と各自が属している社会層の限界との間にある相互的な矛盾や対立を自身のものとして作家に自省せしめるものであるし、文学作品そのものの形象的な統一のあらわれのうちにその矛盾や対立を克服・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ それぞれの生産部門の特殊性というものは、意味ふかい自省を求めていると思う。出版・印刷の全組合員が、悪出版に抵抗して、組織ある発言をするとき、闇出版屋の横暴が何の痛痒も感じないということはあり得ない。出版・印刷関係の勤労者は、もっともっ・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・な作用で存在し得るためには、少くとも批判の精神と規準とが、或る場合その芸術家の主観をも超えて鞭うち、観察自省せしめ、引き上げるだけの勇気ある誠実な客観性を具えていなければならない。主観に甘えた批評の態度が創作の芸術価値を低下させる実例を、伊・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・わたし達は、自分達が真に勤勉であり、進歩の実現に対して真実の努力を傾けつつあるか、ということについては、鋭い自省をもたなければならないと思う。可能性があるとき、それを実質のある現実のものとする努力を怠れば、それはもう私たち各自が、自分を責め・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫