・・・の売りと買いの勝負は、むろんお前の負けで、買い占めた本をはがして、包紙にする訳にも思えば参らず、さすがのお前もほとほと困って挙句に考えついたのが「川那子丹造美談集」の自費出版。 しかし、これはおかしい程売れず、結果、学校、官庁、団体への・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・藤村は一家離散を敢てして、その作品を自費出版した。ここには、作家藤村の独特な生活力の粘りつよさが現れているばかりでなく、今日の私たちの胸をも引き緊める作家としての気魄が感じられる。だが、当時、何かの賞が、藤村のその精神と作品とに対して与えら・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・当時の出版界と著作者との関係に安じられないものがあって、自費出版を思い立ったのもこの年であった」とかかれている。『戦争文学』という雑誌が発刊されたり、小波の「軍国女気質」泉鏡花「満洲道成寺」という珍妙な小説が出たり、そういう世間の空気のなか・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
出典:青空文庫