・・・然し、愛する者がそれを要としない場合、愛はその独自な本質から、自足して安らかな筈なのです。 これに、誰でも、真個に人間を、人類を貫いている普遍的な光明である愛の本流に、瞬間でも触れたことのある者は実感されることでしょう。 率直な表現・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・柳原子氏の玉の井ハイキング記に連関してその文章が私の心に浮ぶのも、社会の現実を見る見かたに二人共通な個人的な、どちらかというと自足的な匂いが強くあるからであろうと思われる。 柳原子氏は何のために伊藤伝右衛門の赤銅御殿をすてたのであったろ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・等、殆どすべてがアトリエ中心であり、自足してそれぞれの生活の内にはまっているのが、鋭い比較で私に呼びかけたのであった。 全くこの一見逆の結果はどうして起っているのであろうか。素人の考えとして私は、洋画をかく婦人たちが、洋画の本質と自分の・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・の後に現れて、何と自足した自身の伝説の原形をさらしていることだろう。実際上は歴史的な経験を生きた筈の一個の作家が、今日河童を語り、文学上に変化の変化たる所以の諷刺の通力さえ失ったまま、唯濃い墨の色と灰色との画面の色彩をたのしんで描き眺めると・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
・・・彼女の解って呉れる迄、自分は自分の生活を、すっかり独りで営もう、と云う自足の感情は、やがて、此、淋しく離れ離れになった有様で、新らしい元旦を迎えなければならないか、と云う、淋しい孤独感となって来た。 大晦日や元旦の朝を、自分は子供の時か・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ アメリカの実利性、人間精神がより高く深く真理をとらえようとする懐疑を忘却して自足しているアメリカの精神麻痺へのプロテストとして、アンダスンは「暗い青春」の主人公の家出、破婚、流浪の本質を描いているのだけれども、フランス文学にごく近接し・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
出典:青空文庫