・・・その弁当でいくらか力がついたので、またトボトボと歩いて、静岡まで来ましたが、ふらふらになりながら、まず探したのは交番、やっと辿りついて豊橋で弁当を盗んだことを自首しました。 人のよさそうな巡査はしかし取り合わず、弁当を恵んで、働くことを・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 自分はその日校務を了ると直ぐ宅に帰り、一室に屈居で、悶き苦しんだ。自首して出ようかとも考がえ、それとも学校の方を辞職して了うかとも考がえた。この二を撰ぶ上に就いて更に又苦しんだけれど、いずれとも決心することが出来ない。自首した後での妻・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・すなわち、女房が村役場に這入って行って、人を一人殺しました、と自首する。「それを聞いて役場の書記二人はこれまで話に聞いた事も無い出来事なので、女房の顔を見て微笑んだ。少し取り乱しているが、上流の奥さんらしく見える人が変な事を言うと思った・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私は、ただ、残念であったのである。私は、いやになった。自分の生活の姿を、棍棒で粉砕したく思った。要するに、やり切れなくなってしまったのである。私は、自首して出た。 検事の取調べが一段落して、死にもせず私は再び東京の街を歩いていた。帰ると・・・ 太宰治 「東京八景」
出典:青空文庫