・・・国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。否、その正反対が事実であります。牢固たる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ と言って、女中にお酌でもさせてもらうように遠まわしの謎を掛けたりなどしてみたのであるが、彼は意識的にか、あるいは無意識的にか、一向にそれに気附かぬ顔をして、この港町の興亡盛衰の歴史を、ながながと説いて聞かせるばかりなので、私はがっかり・・・ 太宰治 「母」
・・・その埋め合わせというわけでもないかもしれないが、昔から相当に戦乱が頻繁で主権の興亡盛衰のテンポがあわただしくその上にあくどい暴政の跳梁のために、庶民の安堵する暇が少ないように見える。 災難にかけては誠に万里同風である。浜の真砂が磨滅して・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 私は飯田町や一番町やまたは新しい大久保の家から、何かの用事で小石川の高台を通り過る折にはまだ二十歳にもならぬ学生の裏若い心の底にも、何とはなく、いわば興亡常なき支那の歴代史を通読した時のような淋しく物哀れに夢見る如き心持を覚えるのであ・・・ 永井荷風 「伝通院」
出典:青空文庫