・・・色紙、短冊でも並びそうな、おさらいや場末の寄席気分とは、さすが品の違った座をすすめてくれたが、裾模様、背広連が、多くその席を占めて、切髪の後室も二人ばかり、白襟で控えて、金泥、銀地の舞扇まで開いている。 われら式、……いや、もうここで結・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・……ちょっと風情に舞扇。 白酒入れたは、ぎやまんに、柳さくらの透模様。さて、お肴には何よけん、あわび、さだえか、かせよけん、と栄螺蛤が唄になり、皿の縁に浮いて出る。白魚よし、小鯛よし、緋の毛氈に肖つかわしいのは柳鰈というのがある。業平蜆・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・青貝の螺鈿の小箱、口紅のかすかにのこる舞扇、紫ふくさ――私は只夢の中の語語りを見てるように――きくように青貝の光りにさそい出される涙、口紅のあとに思い出すあの玉虫色の唇。 お妙ちゃん――雛勇はん――斯のどっちからよんでも何となくしおらし・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
出典:青空文庫