・・・ 市の町々から、やがて、木蓮が散るように、幾人となく女が舞込む。 ――夜、その小屋を見ると、おなじような姿が、白い陽炎のごとく、杢若の鼻を取巻いているのであった。大正七年四月・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・お島が庭口へ下りて戸を開けた時は、広岡学士と体操教師の二人が暗い屋外から舞い込むようにやって来た。 高瀬は洋燈を上り端のところへ運んだ。馬場裏を一つ驚かしてくれようと言ったような学士等の紅い磊落な顔がその灯に映った。二人とも脚絆に草履掛・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・煙は風呂場の下から逆に勘次の眼を攻めて、内庭へ舞い込むと、上り框から表の方を眺めている勘次の母におそいかかった。と、彼女は、天井に沿っている店の缶詰棚へ乱れかかる煙の下から、「宝船じゃ、宝船じゃ。」と云いながら秋三が一人の乞食を連れて這・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫