・・・それであるから、所謂、良書なるものは、その人によって、定められるのが当然です。 自分が、真に愛読するという本は、そう沢山あるものでない。面白く、読み終らせるだけでも、愛読書ということができるでありましょう。しかし、その程度のものは、・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・まず問いを同じくする書物こそ読者にとって良書なのである。かような良書の中で、自分の問いに、深く、強く、また行きわたって精細にこたえてくれる書物があるならば、それは愛読書となり、指導書となるであろう。かような愛読書ないし指導書は一生涯中数える・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・すべてが良書だというわけではない。翻訳を読むには用心しなければいけない。映画の実例についての著者の所論や感想は「続冬彦集」に集録してあるから読んでもらいたい。姉妹芸術としての俳諧連句については昭和六年三月以後雑誌「渋柿」に連載した拙著論文【・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・子供に勉強させるには片端から読み物に干渉して良書をなるべく見せないようにするのも一つの方法であるかもしれない。そうして読んでいけないと思う種類の書物を山積して毎日の日課として何十ページずつか読むように命令するのも一法であるかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・政治と文化とを一貫して、世相を押しきったこのような潮流は、一九四九年度の毎日文化賞の準備調査、読売新聞社の良書ベスト・テンの調査などで、諸々批判のおこっている永井ものがトップをしめ、「宮本武蔵」や「親鸞」「風とともに去りぬ」「細雪」「流れる・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 児童のための良書ということが各方面の関心をひいている折から、私は切にこの点を一般の注意にのぼせたく思っている。子供の想像力が湧き動くだけのゆとりは、子供の本の頁になくてはならないものだと思う。隅から隅まで語りつくされているこせこせした・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・おそらくあらゆる職業と興味の角度からこの本は読まれたであろう。良書紹介などでこの本の名をあげた人々も尠くない。 けれども、実際として『フランス敗れたり』は果してどれだけの価値ある著作であるだろう。あの小著で通俗史家、報道員であるモーロア・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・エロ・グロ出版物の数が減ってより良書が一冊でも多く売り出されることは必要である。しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のようなものを再び日本につくろうとする動きがある。刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・科学の力、その美、そのよろこび、そこにある人間性を知らせる良書の一つとして岩波新書の「北極飛行」をあげることは、恐らく今日の知識人にとって平凡な常識であろうと思う。ところが、文部省の推薦図書にはこれが入っていない。何故なのだろう。審査員の中・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・夥しいことでは、世界でも屈指であった。夥しい良書悪書の氾濫にもかかわらず、女性の著作のしめている場所は、狭く小さく消極的で、波間にやっと頭を出している地味の貧しい小島を思わせる。やっと、やっと、絶え絶えの声を保って来ているのである。 そ・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
出典:青空文庫