・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ わたくしは響のわたって来る方向から推測して芝山内の鐘だときめている。 むかし芝の鐘は切通しにあったそうであるが、今はその処には見えない。今の鐘は増上寺の境内の、どの辺から撞き出されるのか。わたくしはこれを知らない。 わたくしは・・・ 永井荷風 「鐘の声」
・・・ 自分が頻に芝山内の霊廟を崇拝して止まないのも全くこの心に等しい。しかしレニエエは既に世界の大詩人である。彼と我と、その思想その詩才においては、いうまでもなく天地雲泥の相違があろう。しかし同じく生れて詩人となるやその滅びたる芸術を回顧す・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・瑞巖寺で見た本阿彌の庭のように、一面芝山で何もなくところどころに、面白い巖の出たのもあり。 ○南画的な勁い樹木多し、古、榧、杉◎南天、要、葉の幅の広い方の槇、サンゴ樹それから年が経て樹の幹にある趣の出来てた やぶこうじの背高いの南天特に・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫