・・・ ――朝鮮を食い詰めて、お千鶴を花街に残したまま、再び大阪へ舞い戻って来た丹造は、妙なヒントから、肺病自家薬の製造発売を思い立ち、どう工面して持って来たのか、なけなしの金をはたいて、河原町に九尺二間の小さな店を借り入れ、朝鮮の医者が・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 松子雁の饒歌余譚に曰く「根津ノ新花街ハ方今第四区六小区中ノ地ニ属ス。三面ハ渾テ本郷駒籠谷中ノ阻台ヲ負ヒ、南ノ一方劣ニ蓮池ヲ抱ク。尤モ僻陬ノ一小廓ナリ。莫約根津ト称スル地藩ハ東西二丁ニ充タズ、南北険ド三丁余。之ヲ七箇町ニ分割ス。則曰ク七・・・ 永井荷風 「上野」
・・・その狼藉はなお可なり、酒席の一興、かえって面白しとして恕すべしといえども、座中ややもすれば三々五々の群を成して、その談、花街柳巷の事に及ぶが如きは聞くに堪えず。そもそもその花柳の談を喋々喃々するは、何を談じ何を笑い、何を問い何を答うるや。別・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫