・・・ 樹木でさえ、親木が年寄って倒れれば、きっとその傍から新らしい若い芽生えが出ますでしょう。まして人の心は樹や草などより、もっともっと微妙なものです。 それ故、政子さんが、お亡くなりに成った両親を思うものなら思うほど、自分の中に遺して・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・小さい柿の芽生えを、それがまだ小さいから、と無視するだろうか。割りあてられた話を終っていたわたしは発言を求めて「小さいものの意味」についてのべた。政治が、わたしたちの社会的な良心と道義、そして良識の判断に土台をおいた動きである以上、明日に育・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・それがより若い文壇の世代の足を埋めているばかりか、不可避的にそれらの文学の読者であるよりひろい人民層の中から新しく別個の社会的素質をもってのび立って来ようとしている民主的な文学の芽生えさえも、その成長を歪め、畸型にする作用を及ぼしている。い・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・は一九三〇年の春、益々豊富に大衆の中に芽生えて来る文学的萌芽の肥料として、初歩的な文学雑誌『成長』を刊行しはじめた。一九三一年には、文学サークルのために『文学突撃隊』という文学新聞を出しはじめた。プロレタリア文学における新幹部の養成は、技師・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・文学の生れる広い、深い歴史的な地盤としてあったから、大衆の中からの文学的萌芽というものは実に盛んに芽生えた。今日も、文学作品は非常な売行きを見せているが、そこでの大衆は購買力を持ったものという意味で客観的には現れているに過ぎない。自身の文学・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・民主的出版は芽生えのうちに、用紙のおそろしい闇におしつぶされかけています。日本出版協会の用紙割当は闇紙への権利確認のような実状に陥っていて、政府はさらにその用紙割当を自分の掌の下でやろうとしています。 出版面における戦犯出版社の問題も不・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・などと云ったり草の芽生えを気づいて立派に生えてる等とは云った事がないのです。 そんな風で帰るまで凡そ二時間もの間、育ちかけの芽生えのお話やら空を飛んで行く鳥のお話やら、非常に子供らしいそれで居てなかなか利口な話をしつづけて居まし・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
・・・そしてそのういういしく漲るエネルギーによって人間生活のありかたが改めて知覚され、探究され必ず何かの新しい可能もそこに芽生えていて、社会のうちに行為されてゆく。このことは、限りなく美しく、厳粛な事実だと思う。言葉を加えて云えば、わたしたちが二・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
・・・ちたあとしない内気な若草が夜つゆにしめる其の時に貴方の小さいしとやかな光が小さく見えてますかがやけかがやけ 小さい御星 夜中かがやけ 御空の御星 芽生え おととしは三つ咲き去年は・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 死にそうな哀な小鳥はきくと、悪魔は大声あげて笑いながら、いずれそのうちにはなるじゃろう木の芽生えの肥料に―― と申いた時小鳥は枝からころげ落ちて地面にポッカリあいて居った悪魔の穴の中にころげ込んでしまったと申す・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫