・・・つい鉢前の、菊の芽生えの青々とした低いかげにもう一羽が出ている。外にいる方の文鳥は、見違えるほど綺麗に感じられた。瑞々しい、青い、四月の菊の葉に照って、薄桃色の、質のよい貝殼のような嘴、黒天鵞絨のキャップをのせた小さい頭、こまやかな鼠灰色の・・・ 宮本百合子 「春」
・・・「矢車草」「芽生え」の林米子のために新しい生活と文学の道を照し出した。「雨靴」石井ふじ子、「乳房」小林ひさえ、「蕗のとう」「あらし」山代巴、「遺族」「別離の賦」「娘の恋」竹本員子、「流れ」宮原栄、「死なない蛸」「朝鮮ヤキ」譲原昌子。その・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・そのため婦人の民主的な文学というものは婦人自身の中には非常に僅かしか芽生えないで、そのあとは進歩的な男の人達が文化全体の問題として問題にしました。 一葉の時代でも或る種類の――内田魯庵という風な評論家たちはやはり一葉なんかの文学に対して・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・そして、いよいよ少しはものになりかけ、自覚、良心が芽生えて来ると、私と彼女との芸術観の深さ、直接性に著しい差が生じ、自分が進ませた道であるが故に、彼女は一層失望や焦慮を感じ、私は、絶えず、自己の内的生活、制作に、有形無形の掣肘を加えられると・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・だから、カチューシャが、傷の中から芽生えた人間確信にたってネフリュードフと訣別し、最後に、自分たちの上にあったすべての過去の不幸と無智とに向って、さようならを意味する挨拶として、床にまで手さきのふれるように低くロシアの女の相応なお辞儀をする・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・ だから、日本のようにブルジョア勢力がもう新鮮な文化的芽生えは持っていないにしても、まだ広汎に存在しているところでは、文壇がハッキリ二つに分れ、何とかして生き長らえようとするブルジョア文壇、大衆の意識のハッキリしてくるにつれ、階級闘争が・・・ 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・は、極くありふれた云い方で、しかも野蛮な環境の中で暮している幼いゴーリキイの智慧の芽生えを刺戟するようなことを云った。例えば、彼は云う。「あらゆるものを取ることが出来なくちゃならない――分るかい? それは非常にむずかしいことだ、取ること・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・は、極くありふれた云い方で、しかも野蛮な環境の中で暮している幼いゴーリキイの智慧の芽生えを刺戟するようなことを云った。例えば、彼は云う。「あらゆるものを取ることが出来なくちゃならない――分るかい? それは非常にむずかしいことだ、取ること・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ 道理もわかり、その方法も可能性として婦人の生活に芽生えているのに、まだ何か、婦人の日々のうちには湧き立つ美しくつよい力が不足している。あとからあとからとおさえがたい力で泉がふき出て来るような創造がまだ私たちの毎日にあふれていない。それ・・・ 宮本百合子 「未来を築く力」
・・・小供の時から自分の内に芽生えていた反抗の傾向――すべての権威に対する反抗の気風はこれらの思想によって強い支柱を得、その結果として自尊の本能が他の多くの本能を支配するようになった。外から与えられたように感ぜられる命令、――この事をしろとかあの・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫