・・・とも子 もう物をいってもいいの、若様。瀬古 いいよ。おなかがすいたろう。とも子 そんなでもないことよ。戸部うなる。どうしたの、戸部さん、あなた死ぬとこなの。まだ早いわ。瀬古 ともちゃんはここに来る前に・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・「いや若様、雷が参りました節は手前一身におんわざわいをちょうだいいたします。どうかご安心をねがいとう存じます」 シグナルつきの電信柱が、いつかでたらめの歌をやめて、頭の上のはりがねの槍をぴんと立てながら眼をパチパチさせていました。・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・明治のはじめ、官員の若様が金をもって熱海へ来たのであったから、とりまきがついてお酌をあてがった。それがはじまりでこの人の一生は惨憺たるものとなった。祖母は、不良少年のようにしてしまった発端における自分の責任は理解出来ないたちの人であったから・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 女はまじめな熱心な様子ではなしをつづけて、「ネ、若様、あの方なら貴方様の御方様に遊ばしても御立派でございますよ、御よろしければ……」 からかうように女は云って光君のかおをのぞき込んだ。「マア、そんな事は云っこなしに御し、困・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫