・・・そしてボルの学生たちも、こののこぎりの歯のような神経をもっている高坂との論争は、なかなか苦手であった。そばで一緒にポスターを書いていた五高の福原も、筆をほうりだしてそっちへゆくと、三吉はひとりになってしまう。「――勿論、貴公らがだナ、ボ・・・ 徳永直 「白い道」
一 講演 作家で講演好きというたちの人は、どっちかといえば少なかろう。私には苦手である。テーブル・スピーチでも、時と場合とでは相当に閉口する。昔は、大勢のひとの前に自分一人立って物をいうなどということ・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・事実ダアウィン自身文章をかくことはまことに苦手で、はじめと終りの脈絡が書いているうちに自分でもわからなくなるような時があるとかこっている。然し今日のわたくしどもは、却って退屈なダアウィンの方が、ファブルより科学の本としては却って親しめるので・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・洋服を着はじめてから日のたたない重吉には、あちこちで止めたり、しめたりするボタンやネクタイが苦手で、支度にはいつも閉口した。シャツのカフスがどう間違えて縫ったものか特別せまくて普通にボタンをとめてからでは手をとおしにくかった。 ひろ子は・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫