・・・、すっくと立って、風の如く御不浄に走り行き、涙を流して吐いて、とにかく、必ず呻いて吐いて、それから芸者に柿などむいてもらって、真蒼な顔をして食べて、そのうちにだんだん日本酒にも馴れた、という甚だ情無い苦行の末の結実なのであった。 小さい・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・したがって彼らはその苦行難行に対して世間から何らの物質的報酬を得ていません。麻の法衣を着て麦の飯を食ってあくまで道を求めていました。要するに原理は簡単で、物質的に人のためにする分量が多ければ多いほど物質的に己のためになり、精神的に己のために・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・釈迦は出離の道を求めんが為に檀特山と名くる林中に於て六年精進苦行した。一日米の実一粒亜麻の実一粒を食したのである。されども遂にその苦行の無益を悟り山を下りて川に身を洗い村女の捧げたるクリームをとりて食し遂に法悦を得たのである。今日牛乳や鶏卵・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・父の一生はいわば任務を果たすための苦行の連続であった。かくのごとき苦行を続け得た父の性格を小生は尊敬せざるを得ない。そうしてこの尊敬する父から上記のごとき手紙を受け取ったのである。 父はその青春時代の情操を頼山陽などの文章によって養われ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫