・・・少時学語苦難円 唯道工夫半未全到老始知非力取 三分人事七分天 趙甌北の「論詩」の七絶はこの間の消息を伝えたものであろう。芸術は妙に底の知れない凄みを帯びているものである。我我も金を欲しがらなければ、又名聞を好まなければ、・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・とて、衆苦充満の地獄に堕し、毒寒毒熱の苦難を与うべしとの義なりしに、造られ奉って未だ一刻をも経ざるに、即ち無量の安助の中に「るしへる」と云える安助、己が善に誇って我は是 DS なり、我を拝せよと勧めしに、かの無量の安助の中、三分の一は「るし・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・むしろ、こういう苦難の時代の労働者や農民の生活をかくことにこそ意義があるのではないか。 これも、しかし東京のことが分らない田舎者の感慨だろうか。 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・ おなかにも子供がいるし、背中にひとりおんぶして、もうひとりの子の手をひいて、そうして自身もかぜ気味で、一斗ちかいお米を運ぶ苦難は、その涙を見るまでもなく、私にもわかっている。「いるさ。いるよ。家にいるよ。」 それから、三十分く・・・ 太宰治 「父」
・・・この故に我はキリストの為に、微弱、恥辱、艱難、迫害、苦難に遭うことを喜ぶ。そは我、よわき時に強ければなり。」と言ってみたが、まだ言い足りず、「われ汝らに強いられて愚かになれり、我は汝らに誉めらるべかりしなり。我は教うるに足らぬ者なれども、何・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・て同行戦死者の霊を弔してまたその遺族の人々の不幸不平を慰め、また一には凡そ何事に限らず大挙してその首領の地位に在る者は、成敗共に責に任じて決してこれを遁るべからず、成ればその栄誉を専らにし敗すればその苦難に当るとの主義を明にするは、士流社会・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・その原因は、個性と文学の発展の可能の源泉として、日本の民主主義文学の伝統が、積年の苦難を通してたえず闡明してきた文学における客観的な社会性の意義を、会得していなかったからである。文学において謙虚にまた強固に自己を大衆のなかなるものとして拡大・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・という本は、簡単ではあるが、近代科学に向って動いた日本の先覚者たちの苦難な足跡を伝えている一つの貴重な本である。 それにしても、「科学の学校」を折角訳された神近さんが、原本の後半をすこしのこして「物理の発達」という章を割愛されたというの・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・と題して「人生にすべての苦難がなくなったときの索漠たる物寂しさを想像して見よ」この世は辛いのでいいのだという金言みたいなのがのっている。 実にブルジョア地主が、好きで繰返す言葉だ。頁をくって見ると、『キング』の至るところにこの種類の・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・階級全体の発展が大なる困難におかれている時、彼女のように過去の生活において直接間接永い間大衆の力との密接な連関で作家としても正しく育って来た作家は、自身の作家生活の実態において今日の大衆の苦難を感じそれと闘っているのではあるまいか。『牡・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
出典:青空文庫