・・・この稚い働きての中で十一歳までのものでは、女の児が男児の倍の数を占め、十三歳までのものの中には女の子の方が十万人も多い割合であることも、私たちに沁々と現代の苦難少くない幼年時代を思いやらせずにいない。 六年制であってさえ、この実情であっ・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・ 現代の世界の多数の子供らの日常生活にとっては、アリスの不思議な国も消え失せてしまっているし、また、昔ディケンズが描いたように、小さい人々の苦難の時には、きっと現れて不幸からたすけたり勉強させてくれたりする「親切な紳士、淑女」というもの・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・は旺盛な状態に置かれていると云い得るであろうか。 春陽堂文庫に訳されているアルフォンス・ドーデの小説「ちび公」は苦難な少年の成長の過程を物語って私たちの心をうった物語である。南フランスから出て来たドーデが巴里でそのような可憐ないくつかの・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 一般人の生活について云えば、生活は物質的にも精神的にも苦難多き時代に面している。最もたくさん小説をよむ青年男女の心の内奥に立ち入ってみれば、今日の若い人々の心は決して四年前の若い人たちの心のままの色合いではない。人生は、複雑極るその切・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・云ってみればその相異のうちに、日本の苦難な精神史の実績の幾頁かが作者の知る知らぬにかかわりなくたたみこまれているわけで、はなはだ面白く思われる。同時に、巨大な歴史の時代には時空的なものが小説の主人公となって、人間が添景になるということの承認・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・文学はこれからうちつづく何年かの間、本質的には苦難を経、守勢をとり、萎靡した形をとるであろう。文学におけるヒューマニズムの問題、能動精神の提唱をした一部の作家が、今日ヒューメンなる何を主張し得ているかということについて、その無力化された有様・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そういう点では、婦人参政権獲得のために苦難な道を経た先進婦人たちも、日本では政治上直接に婦人が発言してゆく機会をもっていなかったため、いつも間接に、いつも男の代議士を動かして公の声を伝えなければならなかったということで、自身の動きかたを、お・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・私たち総てが、この数年来経つつある酸苦と犠牲とを、新しい歴史の展開の前夜に起った大なる破産として理解し、同時にそれは生き抜くに価する苦難として照し出してゆく力こそ、悲劇においてなお高貴であり、人間らしい慰めと励ましとにみちている文学精神の本・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・ よきものが或場合受けなければ成らない屈辱や、苦難やを、無頓着らしく冷笑する事は冒涜である。人類の真実な希願を蹂躙する者は、其の同じ足で、自分の生命を踏み躙っているのだ。 私どもは屡々、自分等の足りなさから、失敗しているのは悲しむべ・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その一点を中心として四囲に発散している種々の光彩を見、感じる事が出来るように成るのではあるまいか、私の魂が粗野で、先頃までは鈍かった感触が此頃漸々有るべき発育を・・・ 宮本百合子 「追慕」
出典:青空文庫