・・・中学の四年か五年の時に英訳の「猟人日記」だの「サッフォオ」だのを読みかじったのは、西川なしにはできなかったであろう。が、僕は西川には何も報いることはできなかった。もし何か報いたとすれば、それはただ足がらをすくって西川を泣かせたことだけであろ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・という言葉をもって代用してもたいしてさしつかえないという事はプドーフキンの著書の英訳にエディチングという英語を当ててあることからも想像されるであろう。またこの著者がそのモンタージュを論じた一章の表題に「素材の取り扱い方」という平凡な文字を使・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・の中から気に入った四十八首を英訳したのが「ゴブリン・ポエトリー」という題で既刊の著書中に採録されている。それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・当時まだ翻訳は無かったように思うが、自分の見たのは英訳の抄訳本でただ物語の筋だけのものであった。そうして当時の自分の英語の力では筋だけを了解するのもなかなかの骨折りであったが、そのおかげで英語が急に進歩したのも事実であった。学校で教わってい・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・その一部が英訳されているのをおもしろそうだと思って買って来たまま、しばらく手を触れないで打っちゃっておいた。 ことしの春のまだ寒いころであった。毎日床の中に寝たきりで、同じような単調な日を繰り返しているうちに、ふと思い出してこの本を読ん・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・の通俗講義があったり探偵小説があったり、ヘッケルの「宇宙のなぞ」の英訳の安値版がころがっていたりする。この露店の所へ来ると自分の頭が急に混雑してあまり愉快でない一種の圧迫を感じる。そして自分の日曜日の世界とはあまりにかけ離れた争闘の世界をの・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・巴里屋根裏の学者の英訳本などである。中村敬宇先生が漢文に訳せられた『西国立志編』の原書もたしか読んだように思っている。 中学を出て、高等学校の入学試験を受ける準備にと、わたくしたちは神田錦町の英語学校へ通った時、始めてヂッケンスの小説を・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・ ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まった、表紙と本文の半分以上取れた英訳本。坊主の除れたフランスのセーラーの被る毛糸帽子。印度の何とか称する貴族で、デッキパッセンジャーとして、アメリカに哲学を研究に行くと云・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・の存在の意味をこんにちの歴史の中で明瞭にしてみたいという考えである。 一九一七年に、そのころ後藤末雄氏によって訳された「ジャン・クリストフ」を読んだときの感銘。それから「魅せられたる魂」の英訳がはいって来て「アンネットとシルヴィ」「夏」・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・上巻だけで日本訳は六百頁余もある。英訳もある。 トポーロフはこの長篇を十二回にわけて、農民たちに読んできかせた。十六人ばかりの農民が、この長篇小説に対してごく遠慮のないごく具体的な批評をやっている。 真先に口をきったのはザイツェフと・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫