・・・何台も茶色だの黒だののピアノがある間にはさまって立っていたそのピアノは父と一緒に店先で見たときはそれほどとも思わなかったのに、家へ運ばれて来て、天井の低い茶室づくりの六畳の座敷へ入れられたら、大きいし、黒光りで立派だし、二本の蝋燭たてにとも・・・ 宮本百合子 「きのうときょう」
・・・臼杵川の中州に、別荘があって、今度御好意でそこに御厄介になったが、その別荘が茶室ごのみでなかなかよかった。臼杵川は日向灘とつながって潮の満干が極めて著しい。臼杵へ出入りする船の便宜を計って、川と中島との間に橋というものは一つもない。軽舟に棹・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・からたちの垣がくずれているところから草の茂った廃園が見え、奥の方に丘があってその上に茶室めいたつくりの小さい家が白く障子をしめて建っているのなどもわかった。からたちの垣に白い花が咲くころ、柔かくゆたかな青草が深くしげったその廃園の趣は、昔、・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 玄関の横に、三畳の茶室があった。茶をする人がいなかったから、永年その部屋はつかわれず、朝夕雨戸のあけたてをするだけだ。一畳が床の間で、古びた横ものが壁と見境のつかない煤けた色でかかっていた。小さい変な台の上に、泥をこねて拵えたような頸・・・ 宮本百合子 「百銭」
玄関の横の少し薄暗い四畳半、それは一寸茶室のような感じの、畳からすぐに窓のとってあるような、陰気な部屋だった。女学校へ通う子供の時分から、いつとはなしに、私はその部屋を自分の勉強部屋と決めて独占してしまったのである。私はそ・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・廊下の横手には、お客を通す八畳の間が両側に二つずつ並んでいてそのはずれの処と便所との間が、右の方は女竹が二三十本立っている下に、小さい石燈籠の据えてある小庭になっていて、左の方に茶室賽いの四畳半があるのである。 いつも夜なかに小用に行く・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫