・・・その頃どこかの気紛れの外国人がジオラマの古物を横浜に持って来たのを椿岳は早速買込んで、唯我教信と相談して伝法院の庭続きの茶畑を拓き、西洋型の船に擬えた大きな小屋を建て、舷側の明り窓から西洋の景色や戦争の油画を覗かせるという趣向の見世物を拵え・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・民家の垣根に槙を植えたのが多く、東京辺なら椎を植える処に楠かと思われる樹が見られたりした。茶畑というものも独特な「感覚」のあるものである。あの蒲鉾なりに並んだ茶の樹の丸く膨らんだ頭を手で撫でて通りたいような誘惑を感じる。 静岡へ着いて見・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・この辺りまで畑打つ男女何処となく悠長に京びたるなどもうれし。茶畑多くあり。春なれば茶摘みの様汽車の窓より眺めて白手拭の群にあばよなどするも興あるべしなど思いける。大谷に着く。この上は逢坂なり。この名を聞きて思い出す昔の語り草はならぶるも管な・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・それでも、どの道筋にも共通に、たとえば富士が右手に見え近辺に茶畑が見えなければならないといったような要求が満たされなければならない。そういうわけであるから連句の場合には特に創作心理と鑑賞心理との区別を立てて考察する必要があるのである。この区・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・あっちには、彼女が苗木の時から面倒を見ていた桐畑、茶畑があった。話対手の年寄達もいるし、彼女達を聴手とすれば、祖母は最新知識の輸入者となれた。行きたくなると、彼女は、息子や孫のいるところで、思いあまったように呟いた。「おりゃあはあ、安積・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・で、小屋の中を小声で囀りながら一廻りすると外へ出て来て、また茶畑の方へ霜を蹴り蹴りぴょんぴょんと飛んでいった。十四 野路では霜柱が崩れ始めた。お霜は粥を入れた小鉢を抱えたまま、「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。安次が死ん・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫