・・・ 五 立正安国論 日蓮は鎌倉に登ると、松葉ヶ谷に草庵を結んで、ここを根本道場として法幡をひるがえし、彼の法戦を始めた。彼の伝道には当初からたたかいの意識があった。昼は小町の街頭に立って、往来の大衆に向かって法華経を説・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・の約束の玉稿、ぜひともいただいて来るよう、まして此のたびは他の雑誌社に奪われる危険もあり、如才なく立ちまわれよ、と編輯長に言われて、ふだんから生真面目の人、しかもそのころは未だ二十代、山の奥、竹の柱の草庵に文豪とたった二人、囲炉裏を挟んで徹・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ ことしの正月、山梨県、甲府のまちはずれに八畳、三畳、一畳という草庵を借り、こっそり隠れるように住みこみ、下手な小説あくせく書きすすめていたのであるが、この甲府のまち、どこへ行っても犬がいる。おびただしいのである。往来に、あるいは佇み、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・私たちの借りている家賃六円五拾銭の草庵は、甲府市の西北端、桑畑の中にあり、そこから湯村までは歩いて二十分くらい。家内は、朝ごはんの後片附がすむと、湯道具持って、毎日そこへ通った。家内の話に依れば、その湯村の大衆浴場は、たいへんのんびりして、・・・ 太宰治 「美少女」
・・・この利休居士、豊太閤に仕えてはじめて草畧の茶を開き、この時よりして茶道大いに本朝に行われ、名門豪戸競うて之を玩味し給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るの顰に傚わず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の器物を交・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ゆがみて蓋のあわぬ半櫃 凡兆草庵にしばらくいては打ちやぶり 芭蕉 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・某致仕候てより以来、当国船岡山の西麓に形ばかりなる草庵を営み罷在候えども、先主人松向寺殿御逝去遊ばされて後、肥後国八代の城下を引払いたる興津の一家は、同国隈本の城下に在住候えば、この遺書御目に触れ候わば、はなはだ慮外の至に候えども、幸便を以・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫