・・・そういう荒っぽい、むき出しな動物的な傾向が、ジャーナリズムの上に濁流をなしている。文学作品にも、同じ傾向がある。それが反封建といわれている。しかし、性の問題を、性に局限して理解して、だから人前に出せないとしたのが封建思想であった。きょう、性・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・学者らしく又先生らしい心持の勘には、今日のジャーナリズムの相当荒っぽい物音がそのまま疑問もなく谺することは無さそうに思える。著者にとりてこれは不幸な偶然であるのかもしれないけれども、第三者の心には、今日の日本の文化の肌理はこうなって来ている・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・が出てから一躍有名になり有名になったことに絡んで又そこに別な荒っぽい波の打って来た前後のことをありのまま書き連ねたものである。 ここには、野沢富美子が、急に自分をとりかこんで天才だの作家だの人気商売だからと半ば嚇すように云ったりする人間・・・ 宮本百合子 「『長女』について」
・・・えらく荒っぽいことがすきと見えるね。 自分は返事に困った。だって、プロ文士と云ったって、所謂社会主義だって国家主義から共産主義までの間に種々雑多な日和見主義、民主主義がはさまって、何れも顔付だけは一廉何か民衆解放に貢献するみたいに声明し・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・歴史の現実は、その荒っぽい摩擦を経て、現実にたえた作品を、古典として私たちに伝えているのである。 今日の歴史の波濤の間で私たちの自身の文学について新しい愛と勇気とを覚えるとすれば、それはきのうも思っていたように漠然といい作品を書こうと思・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
・・・つまり理想をもち、憧れも持っていたけれども、最近の数年間の荒っぽい現実は、そういう主観的な角度から恋愛や結婚を思い描く甘さを青春の精神から奪ってしまった。今日の真面目な心は、その若さにもかかわらずイリュージョンの大半を失っている。自分が愛さ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 事情は推移して、プロレタリア文学時代は過ぎたのであったが、この文学を押し流した時代の波は、純文学を主唱した知識人の社会的ありようにも激しく荒っぽい動揺を加えた。そしてそのひどい震盪は、純文学の枢軸であった人間としての自我の拠りどころを・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・父親は早く死に、勝気で美しい母はよそへ再婚し、おさないゴーリキイは祖父の家で育ったのですが、この子供時代の生活が、どんなに荒っぽいおそろしいものであったかということは有名な「幼年時代」という作品に生き生きと描かれています。残忍な生れつきの祖・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・そこに渦巻き展開される色彩のつよい労働、河の面を風にのって流れる荒っぽい、だが声量の豊かな俗謡。目的は何であるにせよ、たといそれが浪費であるにせよ、そこにはゴーリキイをよろこばせ、自身の生命の力をも鮮やかに感覚させる、むき出しな人間の肉体の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・たい贈物である知識欲や成長への欲望、よりよい生活へ憧れるみずみずしい心の動きは、現実にぶつかって、一つ一つその強さを試みられているわけだが、その現実は、青春の思いや人間の成長をねがう善意に対して、何と荒っぽい容赦ない体当りをしばしばくらわせ・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫