・・・と、落ち着いた声で答えた。 己は戸を開けたが、意外の感に打たれて、閾の上に足を留めた。 ランプの点けてある古卓に、エルリングはいつもの為事衣を着て、凭り掛かっている。ただ前掛だけはしていない。何か書き物をしているのである。書いている・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ことに驚いたことには、葉の落ちたあとの落葉樹の樹ぶりが、実におもしろくなかった。幹の肌がなんとなく黒ずんでいてきたない。枝ぶりがいやにぶっきら棒である。たまに雪が降ってその枝に積もっても、一向おもしろみがない。結局東京の樹木はだめじゃないか・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫