・・・ふらふらっとして実際崖から落っこちそうな気持になる。はっは。それくらいになると僕はもう半分夢を見ているような気持です。すると変なことには、そんなとき僕の耳には崖路を歩いて来る人の足音がきまったようにして来るんです。でも僕はよし人がほんとうに・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・由子が平常にしめているうちに、真中に嵌っていた練物の珠みたいなものが落っこちてしまった。珠みたいなものは薄紅色をしていた。…… 由子は、今も鮮やかにぽっくり珠の落ちた後の台の形を目に泛べることが出来た。楕円形の珠なりにぎざぎざした台の手・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・以来ああいう跳躍の方向を試みていて、いく度か床に重く落っこちた揚句「空想家とシナリオ」であのようないかにもその人らしい跳躍旋回の線を描き出した。そして、この作者が自身のコムプレックスに対してもっている健全な判断は、それが二度とは貰うことの出・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・エイゼンシュテインが、直ぐ坊主の装をして、俺が落っこちてやるって、簡単にころがりおちちまったんだとさ。 ――無料で、ころがりおちまでした例だ。 ――ハハハハ、さっぱりしているな。ところで芝居の話へ戻るんだが、職業組合に入っている勤労・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫