・・・そして次の障碍競走では、人気馬が三頭も同じ障碍で重なるように落馬し、騎手がその場で絶命するという騒ぎの隙をねらって、腐り厩舎の腐り馬と嗤われていた馬が見習騎手の鞭にペタペタ尻をしばかれながらゴールインして単複二百円の配当、馬主も騎手も諦めて・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・着なく混ぜ返すほどなお逡巡みしたるがたれか知らん異日の治兵衛はこの俊雄今宵が色酒の浸初め鳳雛麟児は母の胎内を出でし日の仮り名にとどめてあわれ評判の秀才もこれよりぞ無茶となりける 試みに馬から落ちて落馬したの口調にならわば二つ寝て二ツ起き・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・時々、芸者が落馬することもあった。物語は私が、十二歳の冬のことであった。たしか、父の勲章祝いのときであった。芸者が五人、やって来た。婆さんが一人、ねえさんが二人、半玉さんが二人である。半玉の一人は、藤娘を踊った。すこし酒を呑まされたか、眼も・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
出典:青空文庫