・・・寒いだろうといった。葛湯をつくったり、丹前を着せたりしてくれた。そうしたらぼくはなんだか急に悲しくなった。家にはいってから泣きやんでいた妹たちも、ぼくがしくしく泣きだすといっしょになって大きな声を出しはじめた。 ぼくたちはその家の窓から・・・ 有島武郎 「火事とポチ」
・・・あら、もう十時よ。葛湯でもこしらえて来ましょう。本当に、何か召し上らないと。おお、きょうは珍らしくいいお天気。 数枝、ここにいてくれ。何を食べても、すぐ吐きそうになって、かえって苦しむばかりだから。どこへも行かないで、あたし・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・スウプ。葛湯。うまいも、まずいもない。ただ、摂取するのに面倒がないからである。そう言えば、この男は、どうやら、暑い、寒いを知らないようである。夏、どんなに暑くても、団扇の類を用いない。めんどうくさいからである。ひとから、きょうはずいぶんお暑・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・「牛乳だといくらでも飲めるから、きのうは牛乳二合ばかり、今日は葛湯も少したべた」 まさ子は、大儀そうに小さい声で、「ああ、ああ」と云い、先ず肱をおろし、肩をつけ、横たわった。 千世子が下で、疲れるんだって、と云った時、微・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・何の抑揚もなく、丁度生暖い葛湯を飲む様に只妙にネバネバする声と言葉で、三度も四度も繰かえされてはどんな辛棒の良いものでもその人が無神経でない限り腹を立てるに違いない。 斯うなると、菊太と祖母は只根くらべである。つまる処は根の強い菊太がい・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫