・・・私が小学校の六年だったとき、一年したの級に村上さんという生徒がいて、紡績の絣の着物と羽織に海老茶の袴をはいて、級で一番背が高かったばかりでなく、成績が大変いいのと、成績がいいのに、その組にいる武さんと云った金持の子が何かというといじめるとい・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ 斯う云う時の癖で暗い所に非常な不安を感じ食堂の大窓に掛けられてある薄樺の地に海老茶、藍、緑で細かく沢山な花模様に成って居るカーテンに目の廻る様な気持になりました。 彼女は呆やりストーブの傍の椅子に寄りかかって小さい鉢植えのヒヤシン・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・景 そんなに広くない構えで四方に海老茶色の布を下げてある。左右には二つ並べて大きく先王と王妃の像を画いた額がかかってその下に火が燃してある。今のストーブとまでには発達しないごく雑な彫刻のある石板で四方をかこんだ窪い所に太・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・一畳ばかりの勝手を区切る戸の硝子は赤い木綿糸でロシア式刺繍をした覆いがかかっているし、二階から上って来る、ジェルテルスキー家の入口である襖の左右にも、アーチのように、海老茶色に白でダリヤの花の模様あるメリンス布が垂れ下っていた。柱にかけた鏡・・・ 宮本百合子 「街」
・・・化学教室には厚板の実験台があり、ガス管と水道とが備わっていて、紫紺や海老茶の袴をつけ、袂の着物を着た女学生たちは、その実験台に向って席に着いた。左手に首をねじって、ボールドと先生とを見るわけであったが、化学の一時間は何と余力の欠けた、溌溂と・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
・・・ 欄干に赤い襟裏の附いた著物や葡萄茶の袴が曝してあることがある。赤い袖の肌襦袢がしどけなく投げ掛けてあることもある。この衣類の主が夕方には、はでな湯帷子を著て、縁端で凉んでいる。外から帰って著物を脱ぎ更えるのを不意に見て、こっちで顔を背・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫