・・・ 初め「蒼氓」を書いて認められたこの作家が「生きている兵隊」を経て「日蔭の村」を描きやがてこの「結婚の生態」を書くにいたった今日までの足どりは、一個の男が世相の間に次から次へと押し流されつつある跡として、そこに惨憺たるものがある。「・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・ 四 たとえば、石川達三氏のような作家が、初めは「蒼氓」をかいて文学的出発をしながら、その後は「蒼氓」のうちにも内包されていた一種の腕の面を発達させて、「結婚の生態」に今日到達している姿はなかなか面白いと思・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・「蒼氓」をもって現れたこの作者は、その小説でまだ何人も試みなかった「生きている兵隊」を描き出そうとしたのであろうが、作品の現実は、それとは逆に如何にも文壇的野望とでもいうようなものの横溢したものとなっていた。作者はその一二年来文学及び一般の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・龍三や安江などの性格化、シチュエーションには、「蒼氓」でこの作者の示した好みの再現が感じられる。石川氏の筆致は、動きがつよくあってしかも奇妙に立体性、色や音がない。そういう大衆ものの持つ特徴が混りあいながらここでは作者の真面目な調べの力で最・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫