・・・家事の手伝いも、花壇の手入れも、お琴の稽古も、弟の世話も、なんでも、みんな馬鹿らしく、父や母にかくれて、こっそり蓮葉な小説ばかり読みふけるようになりました。小説というものは、どうしてこんなに、人の秘密の悪事ばかりを書いているのでしょう。私は・・・ 太宰治 「千代女」
・・・それには、「よく考えてみましたら、先刻のお願いは、蓮葉な事だと気が附きました。Tには何もおっしゃらなくてもいいのです。ただ、お見送りだけ、して下さい」と書いてあったので私も、妻も噴き出した。ひとりで、てんてこ舞いしている様が、よくわかるので・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・「どうも、きょうは、ありがとう。」蓮葉な口調で言って、顔を伏せ、そっと下唇を噛んだ。 青年を見送りに立とうともせず、顔を伏せたままで、じっとしていた。階段を降りて行く青年の足音が聞えなくなってから、ふっと顔をあげて、「助七。あた・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・と駄目をおし、「むかし嵯峨のさくげん和尚の入唐あそばして後、信長公の御前にての物語に、りやうじゆせんの御池の蓮葉は、およそ一枚が二間四方ほどひらきて、此かほる風心よく、此葉の上に昼寝して涼む人あると語りたまへば、信長笑わせ給へば、云々」とあ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫