・・・自分は最後にこの二篇の蕪雑な印象記を井川恭氏に献じて自分が同氏に負っている感謝をわずかでも表したいと思うことを附記しておく 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・ 詩は古典的でなければならぬとは思わぬけれども、現在の日常語は詩語としてはあまりに蕪雑である、混乱している、洗練されていない。という議論があった。これは比較的有力な議論であった。しかしこの議論には、詩そのものを高価なる装飾品のごとく・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 匆卒の間に筆を執ったためにはなはだ不秩序で蕪雑な随感録になってしまったが、トーキーの研究者に多少でも参考になることができたら大幸である。もし他日機会があったら、もう少し系統的にこれらの問題を考究してみたいという希望をもっている。・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・けれども、江戸伝来の趣味性は九州の足軽風情が経営した俗悪蕪雑な「明治」と一致する事が出来ず、家産を失うと共に盲目になった。そして栄華の昔には洒落半分の理想であった芸に身を助けられる哀れな境遇に落ちたのであろう。その昔、芝居茶屋の混雑、お浚い・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・ 女性に就て云っても、或る時には、感情的、理智的又は智的、無智等と云う大まかな、蕪雑な批評で安んじるような傾向が決して無いとは云われなかったのである。 けれども、人は決してそんな単純な形容詞で一貫するような性格を持っているものでは無・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 人間として持つべきだけの威厳、快楽、美に敏感な感情を授けられたことは、生涯、生活を、蕪雑なものにし得ない為に、自分を益して居る。 けれども、彼の如く、上流の下、或は中の下位の社会的地位の者の家庭に滲み込んで居る、子供としての独立力・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・というような蕪雑な王党的自己陶酔。一層我々に納得されにくい独裁専制政治と宗教についての暴圧的政治論等々、読者は決してすらりとこの一篇の小説を読み終せることは許されない。種々の抵抗にぶつかり、小道へまで引きまわされ、脂のきつい文章の放散する匂・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫