・・・ すなわち教育緩慢の働を変じて急劇となし、十年二十年に収むべき結果を目下に見んとするものなれば、教育本色の効力はきわめて薄弱たらざるをえざるなり。しかのみならず、その政治上において目下の所望は、あるいは十年を出でずして、大に望むに足らざ・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・一点の瑕瑾、以て全璧の光を害して家内の明を失い、禍根一度び生じて、発しては親子の不和となり、変じては兄弟姉妹の争いとなり、なお天下後世を謀れば、一家の不徳は子々孫々と共に繁殖して、遂に社会公徳の根本を薄弱ならしむるに至るべし。故に云く、多妻・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・いわば連帯性の薄弱な愛情は永年にわたって持ちこしてゆけない。それほど、風雨はきついのである。あるときはちりぢりとなって、あるときは獄の内外に、あるときは一つ屋根の下に、それぞれの活動に応じ千変万化の必要な形をとりつつ階級の歴史とともにその幸・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作者はいわゆる筆が立つと・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・人として生活経験に薄弱な過去ほか有しない彼女は、今日も尚、人生の諸相に対して無智と不明とを持っていて、その問題を混乱させるだろう。面倒に成って来た人及び我を見るとひとりでに彼女は怖気付く。決して、今日根を絶してはいない「自分は女だ」と云う自・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
それを見たことで その人の人生に何かが加わり 或は何かが変る丈の力がなくては 観光の対象として極めて薄弱だ。「戦災のあとも見て貰って 十分満足させて」云々。これは心ある日本人をして 何となくばつの悪い思いをさせた。日本・・・ 宮本百合子 「観光について」
・・・ 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。 私の全心にとって、今、良人の死を予想することは、一つの恐ろしい空虚を想うことです。激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはい・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・感覚的な止揚性を持つまでには清少納言の官能はあまりに質薄で薄弱で厚みがない。新感覚的表徴は少くとも悟性によりて内的直感の象徴化されたものでなければならぬ。即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観から・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ ここに恐らく自然主義の薄弱な反動に過ぎない理由があるのである。十九世紀後半が生んだ偉大なものは、たとえ自然主義のいい影響をうけていたにしても、決して自然主義的な本質を持ってはいなかった。そこには常に自然主義以上のものがあった。この事実・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・しかれども霊的執着は薄弱である。彼の蹈む人道は誠に責任を無視している。彼の信仰は問わず、彼に空海の才腕と日蓮の熱烈なきはかれの霊的価値を無に近からしむ。わずかに和歌に隠れて詩人を気取るとも「自己」をのみ目的とする彼に何の価値があろう。 ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫