・・・ 男は、何方かといえば子供らしい、きかん気の子供らしいその外国人の顔を見下しながら、敷居の上から薄笑いした。 私共も、思わず微笑した。併し、何処の人だか、見分けがつかなかった。「あちら、こちら……ない家歩いて、金沢山取ることあり・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・と曖昧に薄笑いしたぎり、必要な答えは与えない。傍でそれを観ると、やや老いかけた農夫の方が、生活力の素朴な感じの点で、青年である大学生よりずっと青年らしくあった。恐らく知識慾の上でも職業学生より、彼が活溌なのではあるまいか? そのような感・・・ 宮本百合子 「北へ行く」
・・・戦時利得税、財産税についての解説一つでも真面目に聴いたらば、人民は、曖昧な日本的薄笑いを口辺に浮べてはいないと思う。貿易局の頭に三井財閥を坐らせている政府。銀行、大企業が、9/10を所有している戦時公債を、財産税でとりあげた人民の金で償還し・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・しかし、この言葉が云われるとき人々はその口辺に一寸薄笑いを浮べる。からくりはお手のものというわかり合いが互の間にとりかわされるのが普通だからである。 小説のことに関して、こんな話し出しかたは奇妙のようにも見える。けれども、出版という企業・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・何とも曖昧な薄笑いを浮べながら、こそりと崖のくぼみに引とった。笑い、私共、歩きながらも笑った。 出島跡を歩いて、私共自身への土産に些細な買物をし、長崎を立ったのはその夜十一時であった。前後たった四日の滞在であったが、その間Y、始終腕・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・デレンコフは、明るい髯をむしりながら、痛ましくも薄笑いした。「破産しちまうよ」 デレンコフの生活も亦苦しかった。彼は時々訴えた。「みんな不真面目だ、何もかも持って行っちまう。お話にならない。靴下を半ダース買って置いたら、すぐ失く・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 婆さんも釣込まれて薄笑いしながら、新しい煙草をつめ始めた。うめは、障子の隙間から板敷を覗いている。その後姿を見、志津はやがて、「あーあ」 小さい欠伸をしながら、「もう何時?」と云った。「日が短い最中だね、四時一寸廻・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫