・・・ わたしの心の火に、藤田嗣治のおかっぱの顔が浮んだ。彼の出発は、何だか特別な感じだった。飛行機でとび立つその日まで、ひたかくしにかくされていて、その日にとられた写真での彼の表情は、まるで一刻も早く飛行機のエンジンがまわりだすのを待ちかね・・・ 宮本百合子 「手づくりながら」
・・・ 働く女が働くものとして自身の技術を愛する熱意はそのものとして美しく、描いて美しいが、今日の現実にあっては、『中央公論』の九月号に藤田進一郎氏が働く婦人の問題について語っているとおりの実状だから、作者としては十分女の主観の外まで歩み出し・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・五十四のとき藤田東湖と交わって、水戸景山公に知られた。五十五のときペルリが浦賀に来たために、攘夷封港論をした。この年藩政が気に入らぬので辞職した。しかし相談中をやめられて、用人格というものになっただけで、勤め向きは前の通りであった。五十七の・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫