・・・ 不思議な蘇生の場面であった。 長火鉢へだてて、老母は瀬戸の置き物のように綺麗に、ちんまり坐って、伏目がち、やがて物語ることには、――あれは、わたくしの一人息子で、あんな化け物みたいな男ですが、でも、わたくしは信じている。あれの父親・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・けれども王子の、無邪気な懸命の祈りは、神のあわれみ給うところとなり、ラプンツェルは、肉感を洗い去った気高い精神の女性として蘇生した。王子は、それに対して、思わずお辞儀をしたくらいである。ここだ。ここに、新しい第二の結婚生活がはじまる。曰く、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 「もうすぐそこだ。それ向こうに丘が見えるだろう。丘の手前に鉄道線路があるだろう。そこに国旗が立っている、あれが新台子の兵站部だ」 「そこに医師がいるでしょうか」 「軍医が一人いる」 蘇生したような気がする。 で、二人に・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・でおつたが取り落とした錦絵の相撲取りを見て急に昔の茂兵衛のアイデンティティーを思い出すところは、あれでちょうど大衆向きではあろうが、どうも少しわざとらしい、もう一つ突っ込んだ心理的な分析をしてほしい。甦生した新しい茂兵衛が出現して対面してか・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・く咲きかけた藤の花を吹きちぎり、ついでに柔らかい銀杏の若葉を吹きむしることがあるが、不連続線の狂風が雨を呼んで干からびたむせっぽい風が収まると共に、穏やかにしめやかな雨がおとずれて来ると花も若葉も急に蘇生したように光彩を増して、人間の頭の中・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・の古いスポーツが新しい時代の色彩を帯びて甦生するようなことがないとも云われないであろう。 この方法が鴫以外のいかなる鳥にまで応用出来るかということも、鳥類研究家には一つの新しい問題になりはしないかと思う。これがもし他の色々の鳥にも応用さ・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・ しかし、太平の世の中でもまれには都大路に白昼追いはぎが出たり、少し貸してくれなどという相手も出現するから、そういう時にはこれがたちまちにして原始民時代の武器として甦生するという可能性も備えているのである。実際自分らの子供の時分に自由党・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・花ばかりでなくいろいろ美しい熱帯の観葉植物の燃えるような紅や、けがれのない緑の色や、典雅な形態を見ればたれしも蘇生するここちのしない人はあるまい。そしてこのわれわれの衣食住の必要品やぜいたく品を所狭くわずらわしく置きならべた五層楼の屋上にこ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・はフロイドの多年の研究によって今までとはちがった意味をもって甦生し、迷信者の玩弄物であったものがかえってほとんど科学的に真な本能的の「我れ」を読み取る唯一の言葉であるように思われて来たのである。顕在的なる「我れ」のみの心理を学んで安心してい・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・其枳の為に救われたということで最初から彼の普通でないことが示されて居るといってもいい。蘇生したけれど彼は満面に豌豆大の痘痕を止めた。鼻は其時から酷くつまってせいせいすることはなくなった。彼は能く唄ったけれど鼻がつまって居る故か竹の筒でも吹く・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫