・・・戸部は頭を虎斑に刈りこまれて髭をそり落とされている。花田 諸君、ドモ又の戸部が死んだについて、その令弟が急を聞いて尋ねてこられたんだ。諸君に紹介します。一同笑いながら頭を下げる。戸部 俺……じゃない、俺の兄貴の死・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・全体が薄樺で、黄色い斑がむらむらして、流れのままに出たり、消えたり、結んだり、解けたり、どんよりと濁肉の、半ば、水なりに透き通るのは、是なん、別のものではない、虎斑の海月である。 生ある一物、不思議はないが、いや、快く戯れる。自在に動く・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・大まかに不ぞろいに刈り散らして虎斑をこしらえる者もあれば、一方から丁寧に秩序正しく、蚕が桑の葉を食って行くように着々進行して行くものもあった。ある者は根もとまでつめて刈り込まないと承知しないし、またある者はある長さの緑を残すように骨を折って・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・は黄色に褐色の虎斑をもった雄猫であった。粗野にして滑稽なる相貌をもち、遅鈍にして大食であり、あらゆるデリカシーというものを完全に欠如した性格であった。従って家内じゅうのだれにも格別に愛せられなかった。小さい時分は一家じゅうの寵児である「三毛・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・斑竹山房とは江戸へ移住するとき、本国田野村字仮屋の虎斑竹を根こじにして来たからの名である。仲平は今年四十一、お佐代さんは二十八である。長女須磨子についで、二女美保子、三女登梅子と、女の子ばかり三人出来たが、かりそめの病のために、美保子が早く・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫